よかった、目が覚めた時に見当たらなかったからもうどこにも無いのかと思っていた。

 これがあったから、私はここまでこれたんだ。
 もう身に着けることはできないけれど、これからもずっと大事にしよう。

「さて、渡す物は渡せたし、話すことも話したから俺はもう帰るかな」
「もう行っちゃうの?」
「当たり前だろ、俺はテニスで忙しいんだ」
 
 さすが誠くん。
 こんな時でも容赦がない。でもそこが彼らしい。そうだ、それでこそ誠くんだ。微笑ましくてつい笑みがこぼれてくる。

「わかった。その代わり、来年は絶対勝ってよ」

 治ったらまた一緒に部活ができる。今度は邪魔なんてしない。
 全力で応援して全力でサポートして、そして優勝してもらうんだ。

「任せろ。それじゃあまたな。早く怪我治せよ。またあの場所で待ってっから」
「うん、また」

 去って行く彼の背中に小さく手を振った。
 次に会える時が楽しみだ。早く怪我を治さなくちゃ。

 誠くんの背中を見送ると、天井の染みを数えられるような退屈な時間が訪れる。でもちっとも寂しくはなかった。

 だって、また会えるから。
 みなみちゃんたちとまた三人で話すことができる。

 ――屋上前の、あの場所で。