「あの後、全部思い出したんだ」

 ぽん、と私の頭に誠くんの手が触れる。
 それは時間を跳ぶ前、誠くんに撫でてもらった時と全く同じ感覚だった。

 その温もりと、優しい感覚を受けて私はようやく実感した。
 ああ、誠くんは私のことを――。

「……初めて私たちが会ったのは、どこ?」

 確認するように問いかける。

「屋上前だろ。泣いてるお前が居たからびっくりしたぞ」

「私にテニスを教えてくれたのは?」
「俺だ。みなみと結託して俺を連れ出そうとするからいい迷惑だったな」

「私にネックレスをくれたのは?」
「それも俺だ。貴重な小遣いをはたいて買ったんだぞ、感謝しろ」

「……じゃあ、私のこと、なんて呼んでた?」

 最後の問いにひと呼吸の間を置いてから、誠くんはふっと鼻で笑った。

「今呼んだばっかりだろ。千歳だ、千歳。覚えにくかったから何度も呟いてたわ」
「……はは、あはは」

 どうしてか、自分でもわかないのに笑いが出てきた。かと思えば突然視界がぼやけて、暖かい涙が頬を伝って枕を濡らした。

「ほんとに、ほんとに思い出したんだね……」