「どうしたの?」
「うーん」

 正直なところ誠くんが生きているのだという安心感みたいなものだけがあって、自らの行動に対する誇りなんてものはこれっぽっちもない。ただ彼が生きていてよかったと、そう思うだけだ。

 そもそも、私は半年間も猶予がありながら何もできなかったわけだし。

「はぁ、結局こうなるんだったら最初から身代わりになっとけばよかったのかなあ」

 わざわざテニスを邪魔したり、記憶が戻るようあれこれ工夫したり。

 まあ部分的に記憶は戻ったし、全く無意味という訳ではないのだろうけれど、どうしてもこの半年間の努力が徒労に終わった感は否めない。

「徒労に終わった、ねえ」

 私の思考を読んでいるらしく、白猫は何かを言いたげに息を漏らした。

「どうしたの?」
「さあね! ボクもう帰るから、またね!」
「え! ちょっと待ってよ! 気になる!」

 呼び止めるのも虚しく、白猫は逃げるように姿を消してしまった。