冬木は包みを解くと、あたりを見回しながら感慨深そうに「いい場所だよねーここ。前から気に入ってたんだー」と語りかけてきた。

「前からって……まだ入学して二日目だろ。留年でもしたのか」

 皮肉に反応してか、冬木は目を丸めてこちらを見つめてきた。
 何だそのびっくりしたような顔は。驚いているのはこっちだぞ、いきなり出現しやがって。

 冬木はしばし硬直した後、唐突に息を吹き出してゲラゲラと笑い始めた。ただでさえ騒がしいというのに、笑い声が山彦のように反響して余計うるさい。

「ぶは! 留年って! 誠くん面白いね!」
「馬鹿にしているのか」

 ダメだ、なんだかこいつのペースに呑まれているような気がする。いつの間にかスマホから目が離れてしまっていた。

「あっ、私が留年しているのはクラスのみんなには内緒にしてね」
「マジで留年してたのか」
「ううん、嘘」

 なんだこいつ。

「意味がわからん……」

 困った、これではテニスの勉強なんてできやしない。せっかくいい場所を見つけたというのに。