「……どうやらボク自身も含めて、みんな運命の力を甘く見ていたみたいだね」

 運命を不確定にさせていたのは、これが原因だったんだ。

「どうしよう……」
「どうするって、止めに行くしかないだろ。チャリに乗ればここからでもギリ間に合う」

 迷う様子もなく、誠くんはすぐに立ち上がった。

「でも――」
「でもじゃねえ、行くんだよ」

 そう言った誠くんの声は震えていた。

 当たり前だ、これから死地に向かうとわかっているのだから、怖くないわけがない。土砂崩れに飲み込まれる痛みも苦しみも、誠くんは知っているはずだ。

「悪い冬木、この半年間ずっと頑張ってくれていたのに。だけど俺はみなみを見捨てることはできない。仮にみなみを見捨てて俺が生き残って、それで母さんとの約束を果たしたとしても俺はまた後悔することになる。それは嫌だ。だから、ごめん」

 震え混じりに、けれど強い意志のこもった瞳が私を見据える。
 行かないでとは、言えなかった。言えるわけがなかった。

 それにみなみちゃんを見捨てられないのは私も同じだ。
 もしかしたら事故現場に居合わせるというだけで、みなみちゃんが事故に遭うことはないかもしれない。それでも、可能性は決してゼロではない。

 少し遅れて、私も誠くんと同じ結論に至った。ここで行かないという選択はもはやありえない。