事故の時間までおそらく残り三十分から一時間程度。
 大丈夫、私たちがここから離れなければ全て解決だ。

 私は今日、この日のために過去へ戻ってきた。
 つらいことも、苦しいことも多くあった。そのたびに心が折れそうになって、そのたびに誠くんに救われてきた。

 そして今、目の前には私を思い出した誠くんがいる。
 届かなかった一歩に、ついに到達したんだ。

 後は私たちがここを離れないだけ。ここに居続けるだけ。それでいい。
 決意なんてとっくにできている。それは誠くんも同じなはずだ。こんなところでお母さんとの約束を無駄にするわけがない。

「……どう? 私たちの運命は変わった?」

 幾ばくかの間を置いて訊ねる。
 これで運命は変わったはず。そう信じたい。私も誠くんも、固唾を飲んで白猫の返答を待っている。

 しかし、白猫は無言だった。
 部屋中がしんと静まりかえり、私にはその静寂がとてつもなく不穏なものに感じられた。

「……そんな、おかしい」

 やがて、無言だった白猫が動揺を見せた。