――四月八日(水)

 家を出ると白猫と目が合った。
 歩道のど真ん中で、まるで飼い主の帰りを待ち続ける忠犬のように綺麗に座していた。白く上品な毛並みはとても野良猫のものとは思えないが、首輪をしていないから野良なのだろう。

 猫は嫌いではないし、僅かながら撫でてみたいという欲求もある。
 だが俺も今日から高校生だ、いい加減子供じみた真似はやめることにした。新品のブレザーに毛でも付いたら大変だ。

「誠、何してるの?」

 しばし白猫と見つめ合っていると、ふと女性の声が背にかかる。高く澄んでおり、それでいて落ち着いた声色は一聞すると大人の女性のよう。しかし振り返ってみると、そこに立っていたのは俺と同じく新品の制服を身にまとったひとりの少女だった。肩まで伸びたストレートの黒髪は紺色の制服によく馴染んでいる。

「ああ、みなみか。猫がいたから見ていただけだ」
 
 家が隣ということもあってみなみとは幼い頃から毎日のように顔を合わせてきた。今日もそうだ、かれこれもう十余年もの付き合いになる。平たく言えば幼馴染というやつだ。