――県大会当日。

「はぐらかさなくていい。死ぬんだろ、俺はこれから」

 彼がそう口にした瞬間、作り上げた笑顔が瓦解した。やがて言葉の意味を咀嚼し、飲み込んだ頃にはもはや表情を繕う必要もないのだと小さく安堵する。

 誠くんは思い出したんだ、これから待ち受ける自分の未来を。

「そっか……思い出したんだね」
「部分的にだけどな。それよりも今は話がしたい。入ってくれ」
「うん」

 安心感が全身を包み込んだ。

 時をさかのぼる前、白猫は記憶を取り戻した私たちが強い意志を持って回避行動をとれば事故を防ぐことができると言っていた。ならば私が誠くんに話すことはひとつ。

「県大会には、行かないでほしい」

 誠くんの部屋に通されるや否やの提案。今まで通りであれば嫌だと突っぱねられたのだろうけれど、テーブル越しに私の言葉を受けた誠くんは喉を唸らせていた。

「そのことについてなんだが、俺は確かに一度死んだ、それは覚えている。だけど事故を避けるのならあの道を通らなければいいだけの話じゃないのか?」
「それは――」

言ってもいいのだろうか。会場に向かえば運命の強制力によって事故に巻き込まれることを。記憶を取り戻したとはいえ白猫とのルールは健在のはずだ。

「それについてはボクから説明させてもらうよ」

 数瞬の間迷っているともはや聞き慣れた中性的な声が割り込んできた。いつの間に現れたのか、白猫が目の前のテーブルのど真ん中に佇んでいる。