「俺は、冬木と友達になりたい」

 たったひと言、誠くんがそう告げる。

 それだけで充分だった。私が正気に戻るには。

 ……ああ、そうだ、そうだった。
 私は間抜けだなあ。

 何秒かして、それまで弱気になっていた自分が馬鹿馬鹿しくなってくる。
 そうだ、私は一番大事なことを見失っていた。

 私はまだ、誠くんと友達になっていない。
 テニスのしがらみから解放されて心の底から笑う彼の顔を見ていない。
 カラオケに行く約束ももう一度写真を撮ることもまだ果たされていない。

 心の中に、小さな火が灯る。

「――お前が俺の邪魔をしてようがなんだろうが、俺はお前のことを良い奴だと思っているし、友達になりたいとも思っている。だから自分を責める必要はない」

 諦めかけていた私に誠くんは多くの言葉をくれた。

 誠くんは私が意図的に邪魔をしていることなんてとっくの昔に気が付いていた。知っていたうえで、それでもなおまっすぐに私のことを認めてくれていたのだ。

 だというのに、当の私がこんなところで挫けていてどうする。
 心に灯った小さな火が、少しずつ大きくなっていくのがわかる。