そうだ、全部やめにしよう。
 夏休みが終わったらすぐに、私は未来から来たんだよと打ち明けよう。

 最後にたったひと言、名前を呼んでくれればそれだけでいい。誠くんを救えなかったことに後悔や心残りはあるけれど、未来に戻ったらすぐに私も同じところに行けばいいだけのこと。

 完全に、心が折れてしまった。

「……やっぱりここにいたか」

 誠くんが目の前に現れたのはちょうどその時だった。
 ため息と一緒に、大好きな人の愛おしい声が私にかけられた。

「……私みたいな嫌な奴を、どうして追ってきたの?」

 もう誠くんに向けられる顔なんてどこにもない。
 少し話をしたら全部打ち明けて、それで終わりにしよう。

 あと二か月も経たないうちに誠くんは死んでしまう。そうなる前にこの寂しさを吐き出す必要がある。

 疲れ切っていた私の頭の中にはもう、いつ打ち明けるか、いつ終わりにするか、それだけしか残っていなかった。

 だから、私は忘れていたんだと思う。
 私はとても大切なことを、たったひとつ、絶対に忘れてはいけないことを忘れてしまっていた。

 時をさかのぼる前、誠くんが交わしてくれた、私にとって人生で一番大事な約束。

 忘れていたその言葉を、その瞬間、図らずも誠くんの方から口にしてくれた。