私は誠くんのことを知っているのだと打ち明けたい。
 全部思い出してほしいと縋りつきたい。

 頭痛の頻度から考えて、私が白猫とのルールを破って未来のことを告げれば誠くんは私のことを思い出してくれるだろう。

 そうしたら私はすぐに未来に帰される。
 だけどその前に、全てを思い出した誠くんがもう一度「千歳」と私を呼んでくれるかもしれない。もう一度頭を撫でてくれるかもしれない。

 ……もう、疲れちゃった。

 希望のない未来に戻されるのだとしても、それでいいとさえ思えてきた。

『――きっと後悔するよ』

 この時になって初めて、私は白猫がしてくれた忠告の意味を真に理解した。
 やめておけばよかった。

 白猫の言葉になど耳を貸さず、あのまま屋上から身を投げていればこんなことにはならなかったんだ。私を知らない誠くんに苦しむことも、罪悪感に胸をえぐられることも、死ぬとわかっているのに変えられない運命に焦ることもなかった。