まだ大丈夫、なんとかなる。大丈夫、絶対上手くいく、大丈夫、大丈夫。

 …………本当に?

 段々と、不安と焦りが芽生えてきた。

 頭痛の頻度は高くなっている。確実に前に進んでいる。なのに、なのに、あと一歩が足りない。

 夏休みに入り、私はすぐに誠くんをテニスに誘った。コートまでの道中で事故が起きる場所を下見するためだ。

「確か、ここらへんだったかな……うん、ここだ……」

 山道を切り開いて作られた一本道。事故が起きた翌日、この場所がテレビで流れていたから覚えている。こんな逃げ道のない場所で事故が起きたら回避しようがない。

 ああ、このままだと本当に誠くんが死んでしまう。
 芽生えた焦りが次第に強くなっていく。

 なんとしても止めなきゃ。誠くんを大会に行かせてはいけない。

 そんな焦りのあまり段々と私の行動は雑になっていった。うっかり誠くんが合宿中に熱中症になることを漏らしそうになったところを寸前で白猫に止めてもらったこともある。そのくらい、私は冷静ではなかった。

「もう! あの時ボクが止めてなかったら喋ってたでしょ!」
「……ごめん」

 ベッドの上で私を叱る白猫に頭を下げたのを覚えている。

 もはや明るい冬木千歳を演じることさえもせいいっぱいで、気を抜けばすぐにでも涙が出てきそうだった。