もちろん、それらを実行してもすぐに治まることはなかったし、すれ違うたびに舌打ちをされたり無視されることは多々あった。けれど、以前のような過激な嫌がらせを受ける頻度が日に日に少なくなっていたのも事実。

 私はこれを運命に勝ったのだと思っている。

 そして目に見える変化はもうひとつ、誠くんのことだ。

「――あれ、前にもこんな話をしたことがあるような」

 そう言って誠くんが時折不思議そうに眉をひそめるようになった。

 間違いない。誠くんは記憶を取り戻しかけている。

 こんなにも早く効果が出るのかと自分でも驚いた。しかしながら白猫が言ったように、誠くんはあと一歩のところで頭痛が起きて記憶が戻らないようだった。

「誠くんの運命はまだ変わらないの?」

 夜中、白猫が私の部屋に訪れた際にそんなことを訊いてみた。

「まだまだだね。むしろ大変なのはこれからだよ。思い出しそうだけど思い出さない、そんな生活が続くと思うから焦って喋りすぎないようにね」
「そっか、わかった」

 大変なのはこれからだ、という言葉で気が引き締まる。とはいえ前に進んでいることに変わりはない。確実に私は運命を変えつつある。

 それから私は未来と同じ行動をなぞり続け、彼を邪魔し続けた。

 梅雨の時期は練習ができない。
 誠くんはテストの点数が悪い。
 合宿は熱中症になる。

 利用できる情報は全て利用していくことにした。顧問の先生に入れ知恵をしたり、恩を着せて無理矢理遊びに誘ったり。