「いやあ、やっぱり誠くんは優しいなって」

 突然笑い始めた私を訝しく見つめる彼に、そう言わずにはいられなかった。

 やっぱり、という誠くんを知っている人間しか口にできない言葉はおそらく白猫が言う「グレーゾーン」にあたるのだろう。もし白猫が今のを聞いていたら頭を痛めていそうだ。

 でも、今だけはどうしても口にしたかった。
 誠くんは誠くんなのだと、自分を納得させるためだ。

 突然笑い始めた私に困惑する誠くんを差し置いて、スキップを刻みながら階段を駆け下りていく。

 改めて私は誠くんのことが好きなのだと強く実感した。擦り切れていた心が癒されていくのがわかる。

 大丈夫、まだまだ戦える。私は運命になんて負けない。負けてたまるか。

 それから、私は足掻き続けた。
 効果はすぐに目に見える形となって表れた。そのひとつが私に対するいじめ問題。

 白猫が言う運命の強制力というのは、人生に与える影響が大きい事象ほど変えるのが難しくなるらしい。つまり、死を考えるまでに私を追い詰めたいじめというのは比較的抗いがたい運命ということになる。

でも、私は抗った。

「こんなことして楽しい?」

 以前は言い返せなかった彼女たちに私は面と向かって対抗できるようになっていた。理由は単純、誠くんが死ぬことに比べたら彼女たちから受ける嫌がらせなんてちっぽけな事だからだ。所詮は子供の遊び、少し証拠を抑えれば解決できる問題。

 あの時は頭に浮かびすらしなかった解決策が自分でも驚くくらいぽんぽんと出てきてしまう。