以降、私はより積極的に誠くんに話しかけるようになった。私のことを思い出してもらうため、そして彼のテニスを邪魔するため。
彼と話したことや一緒にやったことをもう一度繰り返すとは言ったものの、口数が少なく滅多に誘いにも乗ってくれない誠くんとの思い出のほとんどは屋上前での会話が占めている。
だから昼休みなると必ずそこを訪れた。
彼は借りを返す主義だから、いざというときのためにノートを貸したり授業中に答えを教えたりと、できる限りの恩も売った。
「何見てるの?」
「テニス。フォームの確認」
以前交わした会話をできる限り正確になぞる。
「――冬木」
そう名を呼ばれるたび、胸が苦しくなってくる。
時折廊下ですれ違うみなみちゃんは私のことを知らないから、目をくれることもなく通りすぎていく。
まだ過去に戻ってほんの僅かしか経っていない。
焦る時期じゃない。頭ではわかっている。
わかっているのに、私を知らないふたりを見るのがとてつもなく息苦しかった。
一緒にテニスをしたことも、花火を見たことも、そしてこのネックレスさえも、誠くんは覚えていない。
ここにいる誠くんは、もはや私の知っている誠くんではない。
それがたまらなく悲しくて、寂しくて、笑顔を振りまいて話しかけるたびに心が折れそうになるのが自分でもよくわかった。