「じゃあ私は誠くんの練習を邪魔しつつ、できるだけ口に気をつけながら記憶が戻るよう行動すればいいんだね」

「うん、それでいいと思うよ。ただまあ、無茶はしないようにね。焦ってもいいことは何もないからね」

 そこまで語ると白猫は私の膝からぴょんと飛び降りた。直後に昼休み終了のチャイムが鳴り響く。

「それじゃあ頑張ってね」
「うん、ありがとう」

 またも透き通るように透明になっていき、白猫は姿を消した。

 私にチャンスを与えることだけが仕事だなんて言っておきながら、結構まめにアドバイスをくれるあたりいい人、もとい、いい猫なんだろうなあ。本人が言うには猫ではないらしいけれど。

「……あ、そういえばご飯食べてないや」

 気がつけば結構な時間が経っていたらしい。
 私は急いで弁当箱を開けると一粒だけご飯粒を指ですくい、頬の横にくっつけた。

 我ながらなんて馬鹿なことをしているのだろうと思う。でも、明るい冬木千歳を演じるにはこれくらい間抜けな姿になっていた方が自然なはずだ。今は誠くんの印象に残るのが何よりも重要なことだし。

「よし」

 私は立ち上がり、すぐに教室に戻った。