弁当箱を片手に適当に校内を歩きながら、腰を落ち着けるに相応しい場所を探す。
 なるべく静かな場所がいい、欲を言うなら誰とも出会うことなく過ごせる空間。

 真っ先に思い浮かんだのはトイレだが……さすがに嫌だな。いじめられっ子のようで気が引ける。
 次点で屋上だが、これもダメだ。朝のホームルームで担任が「鍵が壊れていて屋上に入れるようになっている」と言っていたが「危ないので決して入らないように。入ったら停学な」とも言っていた。

 さすがに入学早々停学を食らいたくはない。
 いやでも、屋上前の階段ならセーフかもしれない。あそこなら静かで落ち着けるだろうし、何より誰も来なさそうだ。
 毎日一階から四階まで上がるのは少々骨が折れるものの、それもいい運動になるだろう。テニスは足腰が大事だからむしろ一石二鳥かもしれない。

 よし、決まりだ。
 俺の目論見通り、屋上前の階段はひとっこひとりいない理想の空間だった。
 薄暗く涼やかで、扉についた小窓から差す光が適度に照明の役割を果たしているため決して暗すぎるということはない。階段とドア以外何もない空間はトンネルのように足音が反響して心地がいい。