――四月九日(木)

 誠くんが学校に来るとすぐに声をかけた。

 明るい冬木千歳を演じ、些細なことでも大げさに話す。そのくらいしないと誠くんは私のことを覚えてくれないだろうから。

 そんな誠くんは昼休みになるとすぐに姿を消した。程なくしてみなみちゃんが教室を訪れるも「誠いないなあ」なんて言ってすぐに立ち去った。

 話しかけようかとも思ったけれど、声をかけられなかった。私を知らないみなみちゃんと話すのは、きっとつらくなるだけ。それに時が来ればみなみちゃんは自力で誠くんのいる屋上前に辿り着く。話すのはそれからでもいい。

 去って行くみなみちゃんの背中を見送ってから私は席を立った。

 向かう場所は決まっている。彼がどこに行ったか私は知っているのだから。
 誠くんに会うべく一段ずつ階段を上がると、それにつれて心臓が鼓動を速めていく。

 自然な笑顔を作れるよう顔をほぐし、明るく喋れるよう咳払いして喉を起こす。

 おそらく迷惑そうな顔をされるだろう。きっと辛辣な態度をとられる。
 そういったところまで視野に入れて、階段を踏みしめながら気持ちを整える。

「……うん! いける!」

 両手で自らの頬を叩いて気合を入れた。それからできるだけ足音を立ててご機嫌そうに階段を駆けあがる。

 屋上前につくと、やはり彼はそこにいた。