その日の晩、ベッドで仰向けになっていると「やあ」と軽快な声が聞こえた。同時に腹部に温かな重みが生じる。

「あ、白猫だ」

 お腹の上にはあの白猫がいた。

「ボクは猫じゃないよ、神様の使いだよ。まあそれはいいとして、初日の感想を聞かせてほしいな」
「……思ったよりもつらかったかな」
「だろうねー……」

 忠告は受けていたし覚悟もしていた。それでもやっぱり、私を知らない誠くんを見るのは胸が苦しかった。

「それで、君はこれからどうする予定なの?」
「うーん、テニスを邪魔しようかなって」
「へえ、どうして?」

 事故が起きるのは県大会の日。なら誠くんを県大会に行かせなければいい。行くなと言っても彼は絶対に行くだろうから、練習の邪魔をして予選で負けてもらう。そうすればあの場所に行くこともないはずだ。

 あれほど熱心に打ち込んでいる彼の行く手に立ちふさがるのは私としても嫌だけど、命には変えられない。