そういえば、初めて誠くんに名前を訊ねられた時、私は「千歳」とだけ答えていたっけ。私の名前を覚えようと何度も千歳と呟く彼を今でもはっきりと覚えている。
もしあの時私が冬木と答えていれば、その後も冬木と呼ばれていたのだろう。
途端に、たまらなく胸が苦しくなった。
言ってみれば名前か苗字かなんてどうでもいい問題ではある。でも、彼が私を千歳と呼ぶのは私が彼に名前を教えたから。私が彼に覚えてもらっていたから。
だけど今の誠くんは私を知らない。だから私の自己紹介を聞いて冬木と呼んだ。派手な挨拶が裏目に出てしまった。
……本当に、誠くんは私のことを知らないんだ。
わかってはいたけれど、いざ実感するとそれだけで挫けそうになってしまう。
「私のことは千歳って呼んでね!」
そう頼んでみても、返答は喜ばしくないものだった。それどころか誠くんは面倒くさそうにこの場を立ち去ろうとしている。
「え、あ……いやいやいや! 待って! まだ話があるから!」
苦しくて一瞬だけ言葉に詰まったものの、慌てて呼びとめる。
「部活、何部に入るの?」
最初からわかりきっている質問を投げた。わかっていても、どうしても確認しなければいけない。
県大会の日に誠くんは死んでしまう。テニスこそが彼の運命を死に導くものなのだから。
「テニス部の予定だけど」
彼にとっては何のことはない当たり前の返答。しかしそれは私にとって死の宣告にも等しい残酷な答えだった。
なんとしても、この運命を変えてみせる。
その瞬間から、誠くんを救うための孤独な戦いが始まった。
もしあの時私が冬木と答えていれば、その後も冬木と呼ばれていたのだろう。
途端に、たまらなく胸が苦しくなった。
言ってみれば名前か苗字かなんてどうでもいい問題ではある。でも、彼が私を千歳と呼ぶのは私が彼に名前を教えたから。私が彼に覚えてもらっていたから。
だけど今の誠くんは私を知らない。だから私の自己紹介を聞いて冬木と呼んだ。派手な挨拶が裏目に出てしまった。
……本当に、誠くんは私のことを知らないんだ。
わかってはいたけれど、いざ実感するとそれだけで挫けそうになってしまう。
「私のことは千歳って呼んでね!」
そう頼んでみても、返答は喜ばしくないものだった。それどころか誠くんは面倒くさそうにこの場を立ち去ろうとしている。
「え、あ……いやいやいや! 待って! まだ話があるから!」
苦しくて一瞬だけ言葉に詰まったものの、慌てて呼びとめる。
「部活、何部に入るの?」
最初からわかりきっている質問を投げた。わかっていても、どうしても確認しなければいけない。
県大会の日に誠くんは死んでしまう。テニスこそが彼の運命を死に導くものなのだから。
「テニス部の予定だけど」
彼にとっては何のことはない当たり前の返答。しかしそれは私にとって死の宣告にも等しい残酷な答えだった。
なんとしても、この運命を変えてみせる。
その瞬間から、誠くんを救うための孤独な戦いが始まった。