「はじめまして! 冬木千歳です! 私のことは千歳って呼んでください!」

 自己紹介の際、クラス中の視線を集めながら高らかに名乗りをあげた。
 刺さる視線が痛い。この場の誰もが引き気味に私を見ているのがわかる。私ですら必要以上に明るく振る舞う自分に引いているのだから。

 でも今はそんなことを気にしている場合ではない。
 ホームルームが終わったらさっそく話しかけよう。

 彼と私は今日が初対面。距離感を誤りうっかり誠くんと呼んでしまわないよう、財前くんと何度も頭の中で彼の苗字を連呼する。名前を呼ぶのは私のことを彼に覚えてもらってからだ。

 どうやって事故を防ぐかはまだ決めていないけれど、最低限の交流がなければいざというときに私の話を聞いてもらえない。なので今は話しかけることだけに意識を割く。

「ねえ、財前くん!」

 ホームルーム終了と同時に声をかけた。
 授業が終わると誰よりも速く教室を出るのが私の知る財前誠という人物。躊躇っていては逃がしてしまう。

「あーえっと……冬木っていったっけ、今朝は悪かった」

 申し訳なさげに言う誠くん。聞き慣れた彼の声はそれだけ安心感を与えてくれる。
でも、どうにも違和感があった。

 ――冬木。

 その呼び方が違和感の正体であるとすぐに気が付いた。私の知っている誠くんは、私のことを千歳と呼ぶ。一度たりとも冬木と呼ばれたことはなかった。一瞬冬木という名前が自分のものであるとわからなかった程だ。