「えっと、ごめん」

 謝ってくる誠くんを前に、私は何も言うことができなかった。

 衝撃のあまり頭の中が真っ白になって、一瞬自分が誰なのかさえもわからなくなる。

 立ち尽くしたまま、私はただ目の前の愛おしい人物を見つめるのみ。

 ……誠くんが、生きている。

 何秒かが経ち、ようやく理解が追い付いた途端、涙が滲み出てきた。誠くんから貰ったネックレスを握りしめるとひんやりとした感覚が伝わってきてこれが夢でも幻でもないのだと改めて私を納得させる。

「ほんとに……生きてる」

 ぼそりと呟いた声は彼に届くこともなく周囲の音に飲み込まれた。
 直後、新入生たちをかきわけるようにして、見知った女の子が寄ってきた。

「うわ、誠なにしてるの! 女の子泣かせちゃダメでしょ!? ごめんね、大丈夫だった?」

 みなみちゃんだ。
 誠くんが亡くなって以来、顔を見ることも連絡をとることさえもできなくなった、私の大切な友達。きっと彼が死んでふさぎ込んでいたに違いない。

 それが今、こうして元気な姿を私に見せてくれている。
 嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

 今すぐふたりに抱き着いてしまいたい。その温もりを肌で感じたい。
 けれど今の私はふたりとは初対面、それはできない。

「ふふ」

 代わりに、私は笑うことにした。

「全然大丈夫! ちょっとびっくりしちゃっただけ! これから三年間よろしくね!」

 そう言って私は逃げるように体育館へと向かう。できるだけ明るく、歌ったこともない鼻歌なんかをまじえながら。

 逃げなければきっと私は涙をこらえきれなかっただろう。ただでさえ目元が潤んで今にでもあふれ出しそうだったのから。

 泣いてはダメだ。私は運命を変えるためにここに来た。

 弱い自分は過去に置きざりにして、ここでは明るく真っすぐ笑おう。きっとそれが未来に繋がるのだと信じて。