ちらっと視線を横に移すと冬木は笑顔でうんうんと頷きながら教師の話を聞いていた。
 何も考えていなさそうなその表情はひと目みて「あ、こいつは俺と同類だ」と確信できる程度には間抜けなものだった。おそらく、一学期の中間テスト後はこいつと仲良く補習だろう。嫌すぎる。

 ひと通り授業が終わり、昼休みに入ると俺はすぐに教室を後にした。冬木に話しかけられるよりも早く教室を出ることができたのは我ながら見事だと思う。この敏捷性をテニスでも発揮できれば県大会でも通用することだろう。
もっとも、場所を移したのは冬木を避けるためというよりは教室内の喧騒から遠ざかるためだ。

 ついてないことに、うちのクラスには所謂ギャルと呼ばれる人種が存在する。
 授業中はもちろん、授業間の小休憩時間になると日本語とは思えない謎の言語を発して大笑いしやがるのだ。髪の毛も目に痛い金色で、初日から教員に注意されているところを目撃した。
 彼女らが騒がしすぎてとてもテニスの勉強に集中できたものじゃない。

 ついでにもうひとつ理由をあげるとすればみなみの存在だ。
 みなみは俺がテニスのために人間関係を手放すことをどうも良く思っていない節がある。
 朝は「たまたま家を出る時間があっただけ」と言っていたが、おそらく嘘だ。みなみは意地でも俺をひとりにするつもりがないのだろう、昼休みになればきっと俺を探して教室に足を運んでくる。

 ありがたいし感謝もしているし、俺にとってみなみは大切な存在だ。だけどこればっかりは譲れない。だからなおさら教室にはいられない。