「一度だけ時間を戻してあげる、半年前の入学式まで。正確には時間を戻すのではなく君と彼の魂だけを過去に送り飛ばすって感じなんだけど、まあ時間を戻すのと一緒だね」

 白猫曰く、過去に戻った私は今の記憶をそのまま引き継いでいるらしい。

 ただし、既に死んでいる誠くんはその記憶を引き継げないのだとか。死の痛みと苦しみを知った魂が記憶を持ったまま唐突に肉体に宿ると精神が壊れる可能性があるのだそう。

「……過去に戻ったらどうすればいいの?」
「簡単さ。彼が事故に遭わないよう頑張ればいい。どう? やる?」

 やるに決まっている。
 にわかに信じがたい話ではあったけれど、最初から私に拒否する気はない。

「私、誠くんを――」
「あー、待って。結論を急いじゃダメだよ」

 私の言葉を遮り、白猫は真面目な顔で覗き込んでくる。

「どういうこと?」

「ボクの仕事は死んだ人とか、死にかけている人とか、これから死のうとしている人にチャンスを与えるってものなんだ。だから、本来ならただ君にチャンスを与えて、君がやるかどうかを聞くだけでいい。やるならやるで君を過去に戻すし、後のことは何も知らない。口出しもしなくていい、そういう仕事」

 白猫は息を吸ってなおも言葉を続ける。

「だから、この忠告は完全にボクの善意だと思って受け取ってほしい。チャンスを与えにきた手前こんなことを言うのもなんだけど、やらないほうがいいと思うよ。きっと後悔するから」

「……どうして?」
「運命っていうのはそう簡単には変えられないんだ。過去に戻って君がどれだけ足掻いたところで結局事故に遭うのは避けられないと思うよ。成功率は一パーセント未満かな」

 白猫は困ったように唸ると、運命についての話を始めた。