以来、昼休みになると私だけでなくみなみちゃんも足を運んでくるようになった。

「こら誠、行儀悪いよ。スマホは食べ終わってからにして」
「……おう」

 そんなふたりのやり取りを見ているうちに段々と心がほぐされていくのがわかる。

「ふふ」

 気が付けば私は笑っていた。

「笑うなよ」

 私を見て誠くんは照れくさそうに顔をしかめる。その様子が可愛らしくてますます面白くなってくる。

「だってみなみちゃんお母さんみたい」
「ほんと、手のかかる息子だよ誠は……」

 私が言うと、すぐにみなみちゃんも乗ってくれる。

 相変わらずいじめられていることには変わりはなかったけれど、それでもずっと心が楽だった。暗い自分を受け入れてくれる人がいるというだけで、生きる活力が湧いてくる。誠くんだって不愛想ながらいつも守ろうとしてくれる。

「そうだ、今度三人で出かけようよ」

 ある日、みなみちゃんがそう言った。対する誠くんの返答は決まりきっている。

「嫌だ」

 テニスの邪魔をするなと言いたげに首を横に振る誠くん。
 三人で出かける、という提案は私にとって魅力的だった。生まれて初めて友達と呼べる人に出会ったのだから、行きたくない訳がない。

 それに、誠くんのことをもっと知るチャンスでもある。

 でも誠くんが素直に「行こう」と言う姿が想像できなくて一度として私から誘うことはなかった。現に誠くんは嫌だと即答している。

 だというのに、断られたはずのみなみちゃんの表情はどこか余裕げで、次に口にする言葉ももう決まっているという感じだった。