正直なところ、嫌だった。

 道行くおばちゃんに挨拶されるだけで緊張のあまり岩のように体が固まる私にとって、初対面の女の子と一緒にご飯を食べるなど難易度が高すぎる。

 きっと私が知らない話題でふたりが盛り上がって、それを「そうなんだー」なんて楽しいフリをして聞かなくてはいけない。コミュニケーションに自信のある人ならそこで自分から質問を投げて話を広げていったりするのだろうけれど、私にそんな芸当はできない。

 一緒にご飯を食べるなんて無理だ。
 でも、

「じゃ、じゃあ」

 そう言って私は階段を上がった。
 内心では逃げたくて逃げたくて仕方がなかったのだけど、誘いを断ったせいで嫌われて、それこそいじめられたらどうしようという不安の方が強かったのだ。

 階段をあがると、みなみと名乗った女の子は誠くんの隣に座り、反対側の床を手でぽんぽんと叩きながら「ここにおいでー」と私を出迎える。

 ひんやりとした階段に腰を降ろすと、私の脳はすぐにフル稼働する。
 考えることはひとつ、どうやって嫌われずにこの場を乗り切るか。

 テスト中にどう足掻いてもわからない問題を必死に解くように、黙りこんでひたすらそれだけに没頭した。

 しかしみなみちゃんはそんな臆病で警戒心の強い私とは正反対で、考える間を与えてくれることもなく唐突に語り掛けてきた。