「仕方ないだろ。教室は金髪女たちがいてうるさいんだし」

 金髪女という言葉で苦しかった心臓が余計に嫌な音を立てる。十中八九、私をいじめている彼女たちを指しているのだろう。

 ……引き返そう。

 この場所にいる間だけはいじめのことを考えなくて済んだのに。誠くんとふたりきりでいる時だけが心安らぐ時間だったのに。

 今ここに私の居場所はない。
 私なんかがふたりの邪魔をしちゃいけない。

 あまりにも卑屈で傲慢で愚かな自分の考えを理解していながら、逃げ出したいという恐怖や絶望にも似た感情に体が支配された。

 一歩、後ずさる。
 けれど足が震えていたせいか、音を殺すこともなく迂闊に踏み出された一歩は屋上前に音を反響させてしまった。

 その音で上段の女の子がこちらへ振り返る。

「あれ?」

 上から見下ろされるような構図だったせいか、ただ疑問符を発しただけの彼女に酷く怯えた。敵意を向けられているわけでもないのに、臆病な私にはそれがとてつもなく攻撃的なものに感じられた。

 振り返る動作につられたのか、程なくして誠くんもこちらに視線を向ける。

「お、千歳か」

 たったひと言、彼が私の名前を呼んだ。それだけで私を見下ろす女の子は全てを悟ったらしく、「初めまして、佐倉みなみです。せっかくだから一緒にお昼食べようよ!」と陽気な声で私を誘った。