テニスが優先で、それ以外に時間を割く気はない。そんな態度をとっているのに、私が本当に困っているときはいつも助けてくれる。味方でいてくれる。

 ……いつから私の靴を探してくれていたんだろう。彼があくびをするたびに胸が熱くなるのがわかった。

 それからは誠くんが何かをするたびに、それがどんな細かな動作であっても目が離せなくなった。どきどきと胸が鳴って、口数の少ない彼の言葉ひとつひとつを抱きしめるように聴き入った。

 もっと誠くんを知りたい。もっと仲良くなりたい。

 次第に私は強く願うようになっていった。けれど誠くんが見ているのはいつもテニスばかり。たしかに、私も夢中になる彼を応援していたし、かっこいいとも思った。でも、もう少しだけ、ほんの少しだけでもいいから私を見てほしいなんていうわがままな感情もあった。

 そんなもどかしい日々を送っていた頃のこと。

「誠、こんなところにいた!」

 いつものように屋上前に行くと、そんな声が聞こえてきた。
 踊り場から屋上前を見上げる。そこには仁王立ちする女の子と、その正面で面倒くさそうに顔を歪めて座る誠くんの姿。

 誰だろうなんて思いながら、私はふたりの様子を下段から見上げた。

「朝もさっさと行っちゃうし、昼休みはいつも教室にいないからどこに居るのかと思えば……」

 綺麗な黒髪を揺らす女の子はその口ぶりからして誠くんの知り合いなのだろうと理解した。もしかして、彼女だったりするのかな。

 そっか、誠くんにもそういう人がいるんだ。
 きゅっと、心臓が苦しくなった。