――十月十八日 県大会当日

 私は愚か者だ。
 私は大馬鹿者だ。

 こうなることがわかっていながら、結局何もできなかった。
 誠くんの家の前で、私は不安に怯える胸を落ち着けるべく何度も深呼吸をする。

 今日、誠くんは死ぬ。そんなこと誠くんは夢にも思っていないだろう。
 顔を合わせた時、上手く笑えるだろうか。きっと誠くんはもう起きている、私がチャイムを押せばすぐにでも出てくるはずだ。

 扉の前で何度も息を整える。口角をあげて、開口一番「おはよう!」と言えるよう幾度となく予行練習を行った。

 泣いても笑っても、今日が運命の日。
 彼の運命を変えるために、私はもう一度ここに来た。

 ああ、懐かしい。こうして笑顔の練習をしているとあの頃の記憶が鮮明に蘇る。誠くんと過ごしたかけがえのない時間。

 けれど、その記憶はこの半年間のものではない。私が彼の邪魔をし続けた日々の記憶ではない。

 それは時間をさかのぼる前、私が彼と過ごした本当の半年間――。