汗を拭い、リビングに向かうと俺は一目散にテレビをつけた。

『先日の降雨の影響により駅周辺で土砂災害の恐れがあります。外出なさる方は充分注意を払いましょう』

 ニュースキャスターの女性が読み上げた土砂崩れという言葉で背筋が凍り付く。
 そうだ、これだ。俺はこれに巻き込まれて死ぬ。いや、死んだ。

 車両一台が飲み込まれるかどうかくらいの、規模の小さい土砂崩れ。しかし人の命を奪うには充分すぎる災害だ。

 ……今すぐ冬木と話をしなければ。

 慌ててスマホを取り出すと、見計らったかのように玄関のチャイムが鳴った。それは一度だけでなく、何度もしつこく繰り返された。

 慌てて玄関まで駆けた。人生でこれほど急いだことはない。
 扉の向こうにいる人物が誰かなど、このうるさいチャイムを聞くだけでわかる。

「冬木!」
「わっ、びっくりした! おはよう誠くん!」

 玄関先にはぱっと見いつもと変わらない、明るい笑みの冬木が立っていた。しかし体の前で組んだ手が微かに震えていることも、その理由も今の俺にはわかる。

 くだらない前置きはなしだ。

「入れ」
「え、でも大会までゆっくりする時間はな――」
「はぐらかさなくていい。死ぬんだろ、俺はこれから」

 そう口にした瞬間、冬木の表情から笑みが消えた。
 ――その反応は紛れもなく、俺の見た夢が現実であることの証明だった。