「予選突破おめでとう」

　難なく予選を通過した俺に対して、冬木がかけた言葉はたったのこれだけ。
　何の感情も込められていない、抜け殻のような言葉だった。

　約束を果たすための第一歩を俺が力強く踏みしめたというのに。優勝さえ視野に入る大事な日を乗り越えたというのに、だ。

　祭りの日にあれだけ元気よく「優勝してね！」と言った冬木が、全力で俺を応援すると言った冬木がこの調子なのだ。どうしても不安になってしまう。

「冬木、お前本当にどうしたんだ？」

　その言葉にも返答はない。
　じっと何かを考え、何かに怯えているようだった。

　わからない。やはり冬木という人間は謎に包まれている。
　日を追うごとに増えていく頭痛と悪夢。そして冬木の異変。

　そうした不安を抱えながら時は進み、ついに、その日がやってきてしまった。