「おはよう誠くん! いい朝だね!」

 頼む、話しかけないでくれ、などと思う間もなく話しかけてきた。

「あ、ああ、冬木か……早いな」

 やめてほしい。
 友好的に接してくれるのはありがたい。しかし生憎ながら俺は誰とも仲良くするつもりはないのだ。
 友達でも何でもないただの顔見知り。それが一番気楽でお互いのためになるだろう。
 
 俺は冬木から視線を外し、スマホに目を向ける。
 今は便利な時代になった。こんな小さな物ひとつで何だってできる。録画した自分のテニスの練習動画を確認することも、世界選手のプレイを見ることもできる。少し検索すれば技術関連のページだって大量にヒットする。

 俺の実力は上の中といったところ。中学の頃から大会ではそれなりの成績を残してきた。だが、あくまでそれなりだ。一度として優勝に手が届いたことはない。

 そんな俺が優勝するにはあと一歩の工夫が必要なのだ。その一歩こそが人との関わりを拒絶すること。