「これなら秋の県大もいけるかもしれないな」

 少なくとも予選くらいは難なく突破できそうだ。

「誠くん、大会の日は駅から歩いていくんでしょ?」
「ああ」

「よかったら会場まで一緒に行かない? みなみちゃんも一緒に!」
「あーごめん、私は無理かも。予選の日も本戦の日も家族と出かけることになってて」

 購買のパンを片手にみなみが申し訳なさそうに眉を下げた。

「まあ土日だしな。冬木はマネージャーだから仕方ないとして、俺としても知り合いに見られると気が散るからかえって助かる」

 県大会まで残り一ヵ月程度。いよいよだ。
 仮に今回がダメだとしても次回がある。とはいえ三年間のうちで挑戦できる回数は限られている。この一回も決して蔑ろにはできない。

「気合入れないとな」
「……うん、そうだね!」

 そうして、一週間、二週間と瞬く間に時間が流れていく。

 練習は順調だった。一分一秒も無駄にできないという極限の集中状態。練習の質として見ればこれ以上のものはないだろう。

 顧問も周りの部員からも「これならいけるんじゃないか?」と期待の眼差しを向けられるほどだ。俺自身もそれは感じている。

 けれど、どうしても不安が拭えない。
 不安の要因はテニスではなく、それ以外のこと。