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 祭りが終わり、教員に見つかることなく無事に学校を抜け出せた俺は冬木を家まで送り届けていた。

「今日はありがとね」

 玄関先で手を振ってくる冬木に、控えめだが俺も手を振り返す。

「また明日な」
「うん、また明日!」

 こうして俺の夏休みは終わりを迎えた。

 翌日からの冬木は、宣言通り全く俺の邪魔をしてこなくなった。
 いつもならスマホを見る俺の気を引こうと意味不明な会話をしかけてくるのだがその様子はなく、むしろ一緒になって画面をのぞき込んでいる。本人曰く「今まで邪魔した分を取り返す」らしい。

 本人では気付くこともない動きの癖を指摘してくれたり、俺の代わりにテニス関連の情報を集めてくれるようにもなった。

「まるでマネージャーみたいだな」
「そうでしょう。私はやればできる子ですから」

 皮肉のつもりで言った言葉は称賛の言葉として受け取られたらしく、昼休みの屋上前に冬木の笑い声が響いた。

 実際のところ、冬木にアドバイスをもらうようになってからは自分でも自覚できるほど動きに無駄がなくなったように思える。どれも細かい指摘ばかりだったが、その細かな積み重ねが目に見える形となっているのは確かだ。