会場から離れていることもあって見える花火はやや小さいが、それでも祭りが佳境に入っていることもあって迫力は充分と言える。

「わあ! 綺麗!」

 空を彩る虹色の光に吸い寄せられるように冬木は柵まで駆け寄った。腰ほどの高さの柵は心もとない。屋上が立ち入り禁止になるのも頷ける。

「落ちるなよ」
「うん! 誠くんもはやくこっち来て!」

 身を乗り出す冬木が誤って転落しかけても掴めるようにと、俺もすぐ横に並ぶ。

「凄い眺めだね」
「だな」

 光が弾けるたびに少し遅れて音が聞こえてくる。街を見下ろすと一軒家の窓から顔を出して花火を見る人が目についた。

 きっとみんなあの花火に夢中なのだろう。
 けれど、そんな中で俺はどうしても、花火だけには集中できなかった。

 きらびやかな火花が夜空を覆い、零れ落ちる光が冬木を照らしている。
 俺はその横顔から、どうしても目が離せなかった。花火にも負けないほど華やかで、心の底から楽しそうな冬木の笑顔。

 可愛いと思ってしまう、見惚れてしまう。

「……頑張らないとな」

 誰にも聞こえないくらいの小さな声で自分を鼓舞する。
 待っていてくれ、必ず約束を果たすから。

 必ず母さんとの約束を果たし、俺は冬木と友達になってみせる。