「ありがとう、ごめんね。いつか必ず訳を言える日が来るから。そう遠くないうちに」
「そうか、それならいい」
「うん。あと、それからね」

 横から大きく息を吸う音が聞こえた。直後、勢いよく立ち上がったような激しい衣擦れの音とともに頭上から冬木の声がした。

「邪魔をするのは、今日でおしまい!」
「ど、どうしたんだ急に」
「色々考えていたんだけどね、なんというか吹っ切れちゃった! これからは全力で誠くんを応援するし、全力でポートする! だから、絶対に優勝してね」

 教員にバレてしまうのではないかとひやひやするほどの声量で冬木は高らかに宣言した。声色はもう完全にいつもの冬木と同じ調子だった。そのことに安堵して、つい息が漏れる。

「はっ、言われなくても優勝するに決まってるだろ。今のうちに友達になったらやりたいことリストでも作っておくんだな。もちろんみなみも一緒だぞ」
「任せて! まずは三人でカラオケだね。あとプリク――」
「プリクラは却下な」
「なんで!?」

 ああ、よかった。いつもの冬木だ。
 こいつがいると暗闇でも目の前が明るく見えてくる。

「よし、んじゃあそろそろ行くか」

 冬木に負けずと俺も勢いよく立ち上がり、感覚だけを頼りに強引に冬木の手をとった。