気付くのが、遅すぎた。

 家にいる間、俺はずっとひとりだ。父さんは仕事でほとんど家にいない。

 だから、遅くまで起きていても、誰も俺を叱ってくれない。

 ゲームにのめりこんでも誰も俺を現実に引き戻してくれない。

 ご飯だよ、と呼びに来てくれる人は誰もいない。

 静かすぎる家を独りで過ごしているといつも母さんのことを思い出してしまう。風呂場に行けば幼いころはよく一緒に入っていたとか、台所に行けば料理中につまみ食いをして怒られたな、とか。

 そうして思い出せば思い出すほど寂しくなって、同時に自分が言ってしまった取り返しのつかない言葉の数々が強く胸を締め付ける。

 嫌いだなんて言ってごめんなさい。

 たったひと言、そう謝りたい。もっと言いつけを守ればよかった、もっと優しくしていればよかった。好きだと言えばよかった。

 どれだけ後悔しても、もう母さんには会えない。俺は親不孝者だ。
 そうして後悔していた時、俺はあの約束を思い出した。

『――いつか県大で優勝してみせる!』

 遠い昔に母と交わした言葉。当時は夕飯を食べながらノリって言ったような軽い約束のつもりだった。

 しかし今は違う。
 約束を破り続けた俺が、まだ果たせるかもしれないたったひとつの約束。

 これは、この約束だけは果たさなくてはいけない。
 たとえ、他の全てを捨てたとしても。