「別に待ち構えてたわけじゃないよ。たまたま時間が同じだっただけ」
「そうか。まあ家隣だしな」
「だね」

 憂鬱な夢を見たこともあって今日はひとりで登校したい気分だったのだが、相手がみなみなら別に気にすることもないか。どうせ数分間の道のりだし。
 そんなことを考えつつ、桜色に染まった道を歩いていく。

 特にこれといった会話もないまま学校に着き、上履きに履き替えると俺たちはすぐに各々の教室へと向かった。

「三組こっちだから。それじゃ」
「うん、またね」

 一見冷めきった関係性に見えるが、俺たちにとってはこれが普通。むしろ昨日が喋りすぎたくらいだ。

 新学年特有のそわそわした空気を肌で感じながら廊下を歩く。そのまま教室に着くと、できるだけ静かに、かつ目立たないよう席についた。

 クラスメイトとの関わりを持たないためにはこうした地味な男でいる努力も必要だ。もっとも、普通に着席したところで誰も話しかけてこないだろうけど。

 ああいや、ひとりだけ話しかけてきそうな奴がいたな。
 おそるおそる横目で左を確認すると、例の女が満面の笑みをこちらに向けていた。