俺は特に何を言うでもなく無言で冬木の横に腰かける。すると、とても冬木のものとは思えないほど弱々しい声が隣から発せられた。

「どうして追ってきたの……?」
「そりゃあ花火を見たいと言った本人が突然消えたら探すだろ」

「そういう意味じゃなくって」
「なんだ」

 聞き返すも、ぐずぐずと鼻をすするような音と弱々しく吐き出される息の音だけが聞こえてくる。言葉を発するのに幾らかの時間を要するようで、それはこのまま夜が明けてしまうのではないかというくらいの間があった。

 俺は急かすこともなく、ただじっと冬木からの返答を待つ。

「……私みたいな嫌な奴を、どうして追ってきたの?」
「なんだ、そんなことか」

 えらく間を置くものだから、てっきり俺が予想もしないことを言い出すものとばかり考えていたのに。

 あまりにも馬鹿な質問なおかげでついこの場ににつかわしくもない笑みがこぼれてしまった。それに反応したのか、隣からはびくっと体を揺らしたような衣擦れの音。きっと何故俺が笑っているのかわからなかったのだろう。

 どうやら冬木は決定的な勘違いをしているらしい。

「そもそも、俺は別に、お前のことを嫌な奴だなんて思っていないぞ」

 その言葉に反応はなかった。一瞬暗闇に飲み込まれて冬木のもとまで届かなかったのではないかと思ってしまうほどの無反応。けれど、数秒ほど遅れてから「え?」と戸惑ったような声が返ってきた。

「私……ずっと誠くんの邪魔をしてきたんだよ?」
「知ってるわ」

「お母さんとの大切な約束があるのに」
「そうだな」