走りながらスマホを確認すると時計が八時三十分であることを告げていた。もう猶予はない。半時間もすれば花火も祭りも終わりだ。

 じきに息があがり、思うように足が動かなくなってくる。
 走らなくちゃいけないのに、酸素を欲した俺の脚は徐々に回転を緩めていく。

 やがて足が止まると、俺は膝に手をついて何度も深く息を吸った。

「ダメだ、どこにもいない……」

 花火が楽しみだと笑う冬木の顔を思い浮かべると、何故だか胸がもやもやした。あんなにも楽しそうだった冬木がこの場にいないというだけで、俺まで涙が出てきそうになるのはどうしてだろうか。

 じきに花火は終わる。仮に見つかったとしても、連れ戻すまで花火が続くかはわからない。
 だがそれでも、たとえ花火を見れなかったとしても冬木だけは探さなければ。

 そうしなければ後味の悪いまま新学期を迎えてしまう。それだけは嫌だ。
 しかしこの広い街で、電波も繋がらないというのに一体どうやって冬木を見つければいいのだろうか。

 考えれば考えるほど、道が見つからなくなっていくような気がした。

 ――その時だった。

 ふいに、足元から猫の鳴き声が聞こえてきた。

「げ」

 見れば、白猫が上品に座り込んでいた。
 相変わらずの神出鬼没さ、間違いなく冬木の猫だ。