「ねえ誠、千歳ちゃんさっき……」
「わかってる」

 あたりは真っ暗で、提灯と公園の灯りだけが頼りだったが、それでも俺は決して冬木の変化を見逃さなかった。

 ――あのとき確かに、冬木は泣いていた。

 しかし、やはりわからない。俺には冬木が逃げ出す理由がまったく想像もできなかった。涙を流す理由も、逃げるようにこの場を離れる理由も。

 そもそも冬木千歳という人間は謎だらけで、わかることといえば頭がおかしいことと、不気味な猫を従えていることくらいだ。

「くそ、散々花火を見たいとか言っていたくせに逃げ出す奴があるか!」
「どうするの?」
「探して連れ戻すに決まってるだろ。みなみはここで待機。悪いけど花火が終わるまでに戻らなかったら先に帰っててくれ。埋め合わせは後日する!」

 言うだけ言って俺はみなみからの返答も聞かずに駆けだした。
 人ごみをかき分け、思いあたる場所すべてに足を運ぶ。

 祭りの会場はもちろんのこと、以前訪れたショッピングモールや人気のない路地裏。もう帰ってはいないだろうかと家にも行ったが電気が消えていて人がいる気配はない。
 携帯にもかけたが祭りで人が多いせいか電波が繋がらない。

 それからも思いつく限りの、ありとあらゆる場所を探した。
 けれど一向に見つかる気配はない。

 そんな時、ふいに大きな爆発音とともに空が虹色に光った。それを皮切りに次々と夜空が彩られていく。

「くそ! もう始まった!」

 すれ違った男女が空を見上げながら、綺麗だねなんて言っている。道行く人全てが足を止めてそれを見上げている中、俺だけはなおも駆け続ける。