いい機会だ、冬木になら話してもいいかもしれない。
 わざわざ話すようなことでもないと思ってこれまで言わなかったが、別に今更隠すようなことでもないし、これを機に冬木の妨害が落ち着けば願ったり叶ったりだ。

「前に、冬木が看病に来てくれたときに母さんが亡くなったって話をしたよな」
「うん」
「実は、母さんが亡くなる前に約束したんだよ。いつか県大会で優勝してみせるって」

「――え」

 冬木が硬直したのがわかった。

「ああ、重く受け取らないでくれ。確かに俺はテニスに集中するために人を避けている。だけど別にお前やみなみが嫌いなわけじゃない。ただ、三年間という期間で約束を果たすために仕方なく避けているだけだ」

 もっとも、避けようにも避けられていないのが現状だが。それも俺が優勝すれば解決する話だ。

「まあなんだ、別に練習を邪魔されたからってお前のことが嫌いになったりはしてないから気にし――って、冬木……?」

 先細った俺の言葉は、やがておそるおそる冬木の名を呼ぶ声に変った。硬直していた冬木の表情、その変化に気がついたからだ。

「……私、最低だ」

 力なく呟いたかと思うと、冬木は突然公園を飛び出していった。

「お、おい! 急にどうした!」

 慌てて冬木のあとを追うも、一歩公園を出た瞬間あふれんばかりの人の群れに足を止められた。

 これでは小柄な冬木を見つけることはできない。先刻まで風景の一部として楽しめていたそれが一転、邪魔なだけの存在に切り替わった。

 事態がいまいち飲み込めない。罪悪感を抱くにしても逃げ出す程のことだろうか。やはり冬木の考えることは俺にはわからない。

 ただ、飛び出す直前、あのとき冬木は――。