――四月九日(木)
嫌な夢を見た。
痛くて苦しくて、無力感に打ちひしがれる、そんな夢を。それがとてつもない悪夢だったということはわかるのに、目が覚めてみれば何も思い出すことはできない。ただ胸に残る苦しさがあるだけだ。
「憂鬱だ……」
ベッドの上で愚痴をこぼした。よほどの悪夢だったらしく、大量の寝汗で服が肌に張り付いている。あまり気分のいい目覚めとは言えない。
頬を伝う汗を手で拭い、そっと立ち上がる。たったそれだけの動作で床が軋みをあげた。築六十年の木造住宅はどうにも不安だ。
壁にかけてあった新品のブレザーを手に取り、やや憂鬱な気分のまま一階のリビングへと向かう。一段降りるごとに軋む階段はやはり憂鬱さに拍車をかけてきた。
程なくして家を出るとまたしても白猫と目が合った。昨日と同じように、歩道の真ん中で行儀良く座ってこちらを眺めている。
「おはよ、誠」
白猫と見つめ合っていると背後から声がかかった。これも昨日と同じだ。振り返るまでもなく声の主が誰なのかがわかる。
「みなみか。わざわざ待ち構えなくても先に行っててくれてよかったんだぞ」
一瞥もくれずに歩き始めるとみなみはすぐに横に並んできた。
嫌な夢を見た。
痛くて苦しくて、無力感に打ちひしがれる、そんな夢を。それがとてつもない悪夢だったということはわかるのに、目が覚めてみれば何も思い出すことはできない。ただ胸に残る苦しさがあるだけだ。
「憂鬱だ……」
ベッドの上で愚痴をこぼした。よほどの悪夢だったらしく、大量の寝汗で服が肌に張り付いている。あまり気分のいい目覚めとは言えない。
頬を伝う汗を手で拭い、そっと立ち上がる。たったそれだけの動作で床が軋みをあげた。築六十年の木造住宅はどうにも不安だ。
壁にかけてあった新品のブレザーを手に取り、やや憂鬱な気分のまま一階のリビングへと向かう。一段降りるごとに軋む階段はやはり憂鬱さに拍車をかけてきた。
程なくして家を出るとまたしても白猫と目が合った。昨日と同じように、歩道の真ん中で行儀良く座ってこちらを眺めている。
「おはよ、誠」
白猫と見つめ合っていると背後から声がかかった。これも昨日と同じだ。振り返るまでもなく声の主が誰なのかがわかる。
「みなみか。わざわざ待ち構えなくても先に行っててくれてよかったんだぞ」
一瞥もくれずに歩き始めるとみなみはすぐに横に並んできた。