「ごめん私戻るね! 多分顧問の先生に怒られるから明日慰めて!」
「お、明日は練習に行ってもいいのか?」
「いいと思う! 見たところもう元気そうだしね! 顧問の先生には『誠くんがひとりは寂しいよって泣きついてきて寝かしつけるのに時間がかかりました』って言い訳しておくね!」
「おい」

 それは洒落にならないからやめてくれ。社会的に死んでしまう。

「冗談冗談、それじゃあね!」
「あ、待ってくれ」

 今にも走りだしそうな冬木を一瞬だけ引き止める。

「今日は来てくれてサンキューな。結構嬉しかったわ。夏祭り楽しみにしててくれ」
「うん! 誠くんも楽しみにしててね!」

 冬木は太陽のごとく明るい笑顔を見せると合宿に戻っていった。

 近場とはいえわざわざお見舞いに来てくれるなんて、やっぱり冬木は良い奴だな。
 ――などと思っていた翌日、俺が合宿に復帰した途端先輩のひとりがニヤけた面を見せながら俺に詰め寄ってきた。

「なあ財前、お前冬木ちゃんに寝かしつけてもらったって本当か?」

 一瞬思考が停止し、その後すぐに全てを悟った。
 俺の視線が刃物よりも鋭く冬木に突き刺さる。当の冬木は下手くそな口笛を吹きながら必死に俺と目を合わせないようにしている。

「あ、あいつ……!」

 やりやがった。冗談だって言っていたのに。
 部活内での俺の呼び名が「バブちゃん」で固定された瞬間だった。

 冬木が良い奴だなんて思った俺が馬鹿だった。
 絶対に、絶対に許さない。