しかしなんだ、面と向かってそう言われるとどうにもむず痒い。いつもふざけたことばかりを言っている冬木が相手だとなおさらだ。真面目な顔で心配だったなんて言われるのは慣れていない。

「あ、あれってもしかして昔の誠くん!?」

 そんな俺の考えなど知りもせず、相変わらずきょろきょろと周りを観察していた冬木は机上の写真立てに目を付けた。以前家族三人で遊園地に来た際、父さんに撮ってもらった写真だ。

「ああ。五年くらい前のやつだな」
「この頃の誠くんはまだ幼いね! 一緒に写っているのはお姉さん?」

 机に駆け寄った冬木が目を輝かせながら返答を求める。

「いや、母親だ」
「うっそ! めちゃくちゃ若い! そして美人!」

 ひとりではしゃぐ冬木をしり目に俺は黙々とゼリーを食べ進めた。
 なるべく表情を崩さないよう、細心の注意を払って。

 何故そう務めるのか、それは次に冬木の口から発せられる言葉が予測できてしまうからだ。

「今度誠くんのお母さんに会う機会があったら挨拶しなきゃ!」

スプーンを握る手の力が強まった。予測していても、体がそう反応した。

「……無理だぞ」
「なんで?」
「もう死んでるから」

 一切の感情を込めずに、ただ機械的に答える。そうしなければつい弱音を吐いてしまいそうだった。その話はしないでくれ、思い出させないでくれ、と。
 一年の時が経った今でも、俺にとっては進んで語りたいとは思えない過去なのだ。