「……見せてください」
「ゼリーは?」
「食べる」
「一緒に?」
「一緒に」
「よーし!」

 ガッツポーズを決める冬木の前で俺はがっくりと肩を落とした。
 くそ、なんだこの敗北感は。試合で負けた時なんかよりもずっと悔しいぞ。

「……上がってくれ」
「お邪魔します!」

 冬木を自室に通し、来客用のローテーブルを黒絨毯の上に置く。テーブルを挟んで向かい合って座ると冬木はきょろきょろと俺の部屋を観察し始めた。

「あんまり人様の部屋をじろじろ見るな」
「ごめんごめん。結構綺麗だなーって。もっとぐちゃぐちゃなのかと思ってた」
「ああ、たまにみなみが押しかけてきて勝手に掃除して帰っていくんだよ」
「なにそれ羨ましい」

 妖怪お節介女なんて言ってはいるが、かなり助かっているのが事実。父さんは仕事で家にいないことが多いし、家事をやってくれていた母さんがいなくなったこともあってうちは散らかりがちなのだ。

「よし、じゃあ今度から私も掃除しに来てあげるよ!」
「逆に散らかりそうだから遠慮しとく」
「あはは、よくわかってるね」

 みかんゼリーの蓋を開けた冬木が笑いながら「はいどうぞ」と差し出してくる。

「美味しい?」
「ああ」
「よかった。思いのほか元気そうで安心したよ。さっきはサボりにきたなんて言ったけど、実は心配だったの」
「そ、そうか」
 こいつにもちゃんと人間の心が残っていたんだな。