「安心して、夏休みは邪魔しないから」
「本当か?」
「うん、だって合宿中はどのみち熱――」

 言いかけた冬木の声を、どこからともなく響いてきた猫の鳴き声がかき消した。
 どこから鳴き声がしたのかと視線をさ迷わせると、いつの間にか冬木の足元に白猫が佇んでいることに気付く。

「げ」

 もはや間違いようがない、あの猫だ。
 ついにテニスコートにまで現れやがった。

 白猫はぴょんと冬木の膝に飛び乗ると、ごろごろと喉を鳴らして丸まった。

「ふ、冬木……その猫……」
「あー、えっと……知り合いの飼い猫みたいな感じかな。私に懐いちゃっているみたいで、どこにいてもついてくるんだよね」

 そう言って冬木は白猫の背を撫で始める。

「そ、そうなのか」

 だからあの日、冬木の家の前にいたのか。
 いやでも、それだとうちの前にもいた理由がわからない。たまたま通りかかっただけか?

 どちらにせよ不気味な猫だが、大人しく冬木に撫でられている姿を見る限り本当に誰かしらの飼い猫なのだろう。せめて首輪くらいは付けてほしいものだが。

 しばらく撫でられて満足したのか、白猫はすっと立ち上がると大きなあくびをひとつ。そのまま地面に降りて走り去っていった。

「そろそろ俺たちも帰るか」
「そうだね」
「空気入れよろしく」
「あ、忘れてなかったんだ」

 当然だ。って、あまり誇らしく言えることでもないが。
 ともあれ夏休みの初日から練習ができたのは幸先がいい。今から合宿が楽しみだ。