「ほんと、酷いよねー」

 冬木は愉快そうに笑ってネックレスを空にかざすと、それから、ふと切なそうに眉をひそめて言葉を続けた。

「でも、私が本当に困っている時には親身になってくれる人でもあったんだ」
「そうなのか」

 珍しい、あの冬木がここまで中身のある言葉を喋るなんて。
 まるで普通の人間みたいだ。

「って、ごめんねこんなこと語っちゃって! 興味ないよね!」
「うん、全然ない」
「それはそれで酷くないかな?」

 全くもって酷くないと思う。

 俺が聞いたのはどこでテニスをやっていたかであって、誰にネックレスを貰ったとか、そいつがどんな奴かなんていうのは極めてどうでもいいことだ。冬木周辺の人物に興味など欠片もない。どちらかと言えば冬木本人に聞きたいことが山ほどある。

「そういえばさ、冬木ってどうして俺の邪魔ばっかりするんだ?」

 山ほどある疑問のひとつがそれだ。
 俺の昼休みを潰し、仮入部を妨害し、テストについて顧問に余計なことを吹き込んだ張本人、それが冬木千歳だ。もはや意図的であることは間違いない。問題は何が目的で邪魔をしているかだ。