そうしてラリーを続けているうちに、予約していた二時間を迎えた。

「どうする? 延長する?」

 ベンチに座る俺のもとに冬木が寄ってくる。

「いや、やめとく」

 体力的には余裕がある。むしろやっと体がほぐれてきたくらいだ。しかし俺は冬木からの提案を受け流した。
 
 実のところ、テニス中に一度、例の既視感とともにあの頭痛が襲ってきていたのだ。プレイに支障こそはなかったが、念のため休んでいたほうがいいだろう。

「そっか、じゃあ休憩!」

 後ろで括った髪を解くと、冬木は俺の隣に腰かけてきた。

「にしても冬木、どこでテニスやってたんだ?」

 動きからして完全な素人ではない。だが部活等で本格的にテニスをやっていた人間の動きかと言われればそのレベルに達しているわけでもない。趣味で少しかじっていたくらいだろう。

「んー」

 冬木は何かを考えるように真っ青な空を見上げた。

「このネックレスをくれた人に少しだけ教えてもらったことがあるんだー」

 そう言って、冬木はいつも身に着けているネックレスを鞄から取り出した。

「貰い物だったのか」
「うん。まあその人とは友達ですらなかったんだけどね」
「なんじゃそら」

 友達でもない奴にテニスを教えてもらっていたなんて変な話だ。

「ほら、私の方は友達だと思っていたのに、向こうは違ったーみたいな感じ」
「ああ、そういうことか。なんか酷い奴だな」

 まあ俺も冬木のことを友達だと思っていないからあまり人のことは言えないが。