俺は振り返り、さっきまで冬木が睨んでいた方へと目を向ける。その行動の意味が自分でもわからない。だが、何故だか目が離せなかった。
 しばらく見ていると、全身に鳥肌が立っている自分に気が付いた。呼吸は浅く、いつの間にか心臓が鼓動を速めていた。

「誠くん?」

 今度は俺が冬木に肩を叩かれ、我に返った。
 なんだ、今の感覚は。
 今のは――恐怖?

「すまん、何でもない」

 訳がわからないまま何度か深めに息を吸うと、やがて心臓が落ち着きを取り戻してきた。暑さのせいで無意識のうちに呼吸が浅くなっていただけだったのかもしれない。

 そうして気を取り直して歩くこと数分、予約したコートに着くと俺はすぐにカバーからラケットを取り出した。

「それじゃあ始めるか」
「うん!」

 一時間二百円のコート代を二時間分払い、十三番コートに足を踏み入れる。
 試合会場としても使われるコートだけあって随分と設備がいい。一から九番コートは受付けを行う事務棟の正面にあり、屋根つきの観客席が用意されている。主に大会等で使われるのはこの九番コートまで。

 そして俺たちが予約した十三番コートは十から十二番コートとともに事務棟の裏側にひっそり広がっており、こちら側は試合ではあまり使われない。そのおかげで事務棟正面のコートよりも静かで気楽にプレイができる。